会社の成長と離職率

<賃貸管理は”ブラック”なのか>
 不動産業界が抱える共通の悩みに「人が定着しない」という問題があります。これは賃貸・売買・仲介・管理どの部門においても言えることで、もっと稼げる会社に行くとか、思い切って独立するとか、ポジティブな理由の転職が多い反面、長時間労働で体を壊す、ストレスに耐えられないといったネガティブな転職も多いのが不動産業界の特徴です。
 確かに不動産会社は休みが少なく、体育会系で、ブラック気質の企業が多い印象です。しかし、離職率が高いことは決して「そういう業界だから」という言葉で片付けていい問題ではありません。組織はどこまでいっても「人」の集まりであり、人が辞めるということは情報的経営資源を喪失することに他ならないからです。いくら売上を上げても、離職リスクを放置していれば、それは栓を抜いた浴槽にお湯を溜めるようなもので、いつまで経っても会社の中に経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)が残りません。会社を大きくするにはまずきちんと「栓」をして、少しずつでも社内に人が残る仕組みを作る必要があるのです。

<対策は2つの視点で>
 離職の問題を解決するには、大きく分けて2つの方法があります。ひとつは、人が辞めない組織をつくること。もうひとつは、人が辞めても情報やノウハウが社内に残る仕組みを作ることです。
 人が辞めない組織とは、つまりスタッフが「もっと働きたい」と思う組織です。最近ではES(Employee Satisfaction:従業員満足)などと言ったりしますが、スタッフが満足を感じるような、イキイキと働ける環境を整備することは重要です。単に高い給料や歩合制度があればいいというわけではなく、例えば、人事評価基準が明確で「どう頑張ったらいいか」が分かりやすかったり、自主的な勉強・資格取得を応援する制度があったりすれば、個々人は高いモチベーションで仕事に取り組むことができます。やる気があるぶんパフォーマンスも向上し、離職問題以外の部分でもメリットを感じられるでしょう。
 次に、情報が社内に残る仕組み作りですが、こちらは急務です。事故や病気、家庭の事情など、どうしても避けられない離職はいつ発生するか分からず、スタッフの知識・ノウハウ・技術は常に喪失の危機にさらされていると言えるからです。


 この喪失を防ぐには、

(1)マニュアル作りの徹底  

(2)対応報告などの共有義務化

(3)オーナーの詳細情報共有

(4)定期的なレポート作成

などがありますが、非常に手間のかかる作業でもあるため、どれだけ効率化できるかがカギになるでしょう。最近ではマニュアル作成支援のクラウドサービスなども登場していますので、こうしたツールを積極的に活用していく必要があります。

<損失を防ぐには>
 何の準備もなく人が辞めることの損失は想像以上に大きいものです。

(1)単純な戦力ダウンはもとより

(2)過去の対応内容が共有されていなければ情報がすべて消えてしまいます。

(3)当然、採用には費用がかかりますし

(4)ゼロから人を育てるとなると手間も時間もかかります。かといって

(5)優秀な人材を採用できる保証はなく

(6)離職した人間が競合企業に転職して自社を脅かすようなケースもあります。

これらの損失を考えれば、事前に手を打つ必要があることは明らかです。
 

 あるいは、ESを高め、社内に情報を残すために、一部の業務をアウトソーシングしてしまうのもひとつの手です。生産性の低い単純作業やクレーム対応のようなストレス負荷の高い仕事は、スタッフのモチベーションを下げやすく離職率を高めかねません。