賃貸住宅の空室率上昇は地方だけに限らず、首都圏においても対岸の火事だから関係ないとは言えない状況だ。タス空室インデックス(分析:タス株式会社)によれば、2018年10月現在と2016年11月のデータとを比較すると、首都圏全域においては11.5ポイントから13.45ポイントと約2ポイントも空室が増えていることがわかる。特に東京都市部ではその上昇率が深刻で、14.14ポイントから17.71ポイントと約3.5ポイントと大幅に空室が増えている。
<空室データ>
一方、住宅経済関連データ(出典:国土交通省)「首都圏における賃貸住宅の新規着工戸数」を見ると、平成28年は15.4万戸、平成29年は14.9万戸であり、全国規模でみても平成28年43. 3万戸、平成29年41.6万戸と、空室が増えているのに、相変わらず大量の賃貸住宅が市場に供給されていることがわかる。
<新設住宅着工戸数の推移(首都圏:総戸数、利用関係別)>
賃貸住宅が増え続けてきた背景には、金融機関が不動産賃貸事業者に対して、自己資本比率が低くても積極的に好条件で融資をしてきたことが挙げられる。「土地があるから」とか「勤務属性がよいから」という理由で、事業性は慎重に分析されることもなく、危険な投資が横行していた。もう一つは、平成27年の税制改正により相続税の基礎控除が大幅に切り下げられ、富裕層以外の人までも課税対象となったことだ。「相続税で資産が目減りするくらいなら、空いている土地に賃貸住宅を建てましょう」というふれ込みで、これまで相続税とは無縁だった地主さんは、賃貸経営のことを学ぶ間も無く「空室保証」という甘い言葉を囁かれてアパートを建ててしまうのだ。アパートメーカーは建てることが仕事なので、市場が飽和状態とわかっていても、建築を推し進めてしまうが、我々管理会社目線で言えば、賃貸市場に必要とされていない間取りやデザインが余りに建てられすぎている。そもそも、人口が減少して、賃貸住宅のメインターゲットである若年者が減っているのだから、長期にわたる賃貸経営のリスクは高まっていることになる。その分、リスクプレミアムでも得られれば別だが、賃料が上らず建築コストが上がっている現状において、地主さんがアパート新築に二の足を踏むのは、当然である。首都圏では、20年前であれば「新築」というだけで、完成直後には満室になっていたし、良い条件で貸せていたが、現在では「普通の新築」は完成時満室が難しくなった。そんな時代だからこそ、人口減少がより深刻な地方だけでなく、首都圏でもより一層の市場性の調査と企画の差別化が必要なのだ。