賃貸住宅の企画事例と、市場調査の重要性

 さらなるメリットとしては、居住用賃貸住宅に不向きな立地でも、賃貸経営が成立することである。例えば、幹線道路沿いや準工業地域などは、騒音やアクセスの問題で嫌厭されがちだが、ガレージハウスとなると車が中心の生活となるため都合が良い。また、しばしば騒音が問題となる高級スポーツカーも、閑静な住宅地は近隣に気を使う必要があるが、上記のエリアならその問題もなくなる。また、通常、駅が遠くなるほど、賃料は下落して稼働率も下がるが、ガレージハウスは距離が遠くてもリーシングに影響がでない。これまでの案件地は駅から徒歩20-30分程度かかるところが多いが、完成前には満室になっている。賃料に関して、「1LDK+ガレージ」であれば、「通常の1LDKの賃料+ガレージプレミアムが5〜6万円程度」の価値を生むことがこれまでの査定の結果でわかった。つまり駅から遠くこれまで賃貸経営に不向きと言われる立地が、十分に採算が取れる案件になる。このように通常の賃貸住宅にはない「住宅+α」で新たなるニーズを創造している。

 ただ、経営的にみると、いくつかの懸念点がある。一つ目は、ターゲットがニッチであること。高級外車を持っている富裕層で、年代や性別もかなり限定されてしまう。特に高級外車にステータスを求める層は、女性よりも圧倒的に男性が多く、年代も30~50代が中心である。(出典:ビデオリサーチオープンカフェ)通常の賃貸住宅がそれぞれ老若男女を全方位的にターゲットにしていることと比べ、セグメント化(市場細分化)されることは、ある意味ターゲットが狭くなるからリスクと捉えることもできる。ただ、賃貸住宅は本来そのエリアごと物件ごとにターゲット(入居者)を明確に決めるべきである。現在市場にある物件のほとんどが、マス(市場全体)をターゲットにしているため、マーケティング戦略を取ろうとしても、特定の手段もなく、ただポータルサイトで情報を流すだけに終始してしまう。結果として無駄に広告費をかけ、全ては不動産会社とポータルサイトありきのリーシング(募集)活動になってしまうのである。その観点から考えるともっとターゲットを絞り、セグメント化されればされるほど差別化となり優位性を高めやすくなるのだ。「高級外車」がキーワードであれば、それを取り扱う「雑誌」や「販売店」に対してもリーシングや営業活動も行うことができるため、問題点と思われるところは、逆に優位性ともなり得る。

 また、もう一つの懸念点は、総潜在賃貸収入(年間で得られるべき総賃料:GPI)が減ってしまうリスクである。通常2階建ての共同住宅が10世帯確保できる容積率があったとしても、そこにガレージハウスとして一階を駐車場としてしまえば、本来得られるべき賃貸料よりも下がり、戸数も半分になる可能性が考えられる。金融機関に融資を打診すると、その辺りの観点からネガティブに捉えられるが、過当競争の中に普通のワンルームを作って空室が増えて、本来得られるべき賃料が得られないことよりも、完全なる差別化をしたほうが価値や収益性が高まることに違いはない。実際に我々が管理をしている物件は、期間こそ浅いが、受託してからは空きが出ずに100%稼働している。入居者は、大切な資産(車)を守る箱ができると、なかなか身動き取れなくなるため、通常の賃貸住宅に比べ解約率(年間解約戸数/総戸数)が下がることになる。この企画は株式会社インフィストデザインによる「incell(インセル)」というシリーズのガレージハウスであるが、こだわっているのは、その「デザイン性」にある。