よくあることですが、賃貸マンションのオーナーが高齢になり、実務を息子さんが取り仕切っているというパターン。
管理会社との管理委託契約名義はお父様。お父様の口座に家賃は送金されますが、入退去や修繕の連絡は息子さんが窓口になられている。管理会社は、契約当事者のお父様がお元気なのかどうなのか、そもそもお顔を拝見したことすらない、ということもあり得ます。
これは当事者にとって結構リスクが大きいものなのです。
お父様と実務をされている息子さんの間に、しっかりとした意思疎通があるうちは、問題になることもないですが、お父様が認知症を患ってしまったり、お亡くなりになったりすると、たちまちマンション経営がうまくいかなくなってしまいます。
認知症になってしまった場合 売却や大規模修繕の契約がまずできません。契約の当事者になることができないからです。
お亡くなりになった場合 息子さん一人が相続できればいいですが、他の相続人と共有になったり、遺産相続で揉めたりした場合、管理会社が巻き込まれることもあります。
2006年に信託法が改正され、徐々にですが民事信託という制度が浸透してきました。なかでも信頼する家族に自己の財産を信託する、いわゆる家族信託は、その使い勝手(といっていいのか)の良さで注目されています。
上記の例のケースでいえば、お父様が元気なうちに、お父様を委託者・受益者、息子さんを受託者とする信託契約を締結します。信託契約は公正証書で締結することをお勧めします。次は、信託契約に基づいて、信託の登記と、信託を理由とした所有権移転の登記手続きを行います。
これで、息子さんは、賃貸経営(売却も含む)に関する契約当事者になることができ、家賃等は息子さんが管理し、お父様の財産とすることができます。
また、信託契約で、お父様が亡くなった場合の信託財産の行末も指定することができますので、例えば家賃等の受け取りはお母様に、お母様が亡くなった場合は、受託者である息子さんに相続させる、といった決め事もできるわけです。
当然ながら、信託契約の締結前にしっかりと家族間(他に相続人になられる方も含めて)で話し合いを行わなければなりません。
家族信託の費用は、信託財産の価値にもよりますが、例えば認知症になり、成年後見人制度を利用した場合に比べると、かなり安価となります。
高齢になり、賃貸経営に不安をもちはじめたときは、家族のためにも、入居者のためにも、家族信託を一度検討してみる価値はあるかと思います。