平成26年8月に、統計局より5年ぶりに住宅土地統計調査が発表となりました。それによると、賃貸住宅はこの5年間で約79万戸供給され、平成20年の調査に比べて、空室数は429万戸となり前回調査よりも16.5万戸ほど上昇しました。リーマンショックの煽りから、なかなか立ち直れない日本経済と同様に、賃貸経営も近年苦戦を強いられています。若年者層の減少による賃貸需要の低下、デフレによる賃料下落、建築資材や職人のコスト上昇、大手メーカーによる新築供給など…それらに伴うオーナーのマインド低下と、今後の賃貸経営の見通しは明るい!とは決して言い切れません。
<問題原因は組織デザインである>
私は全国の賃貸管理ビジネスを行う企業に対して、経営戦略や業務改善のアドバイスをするのが主な仕事です。経営者は効率を上げて生産性を高めることを要求しますが、現場最前線の従業員は日々の業務をこなす事で精一杯。作業効率を追求して生産性を高めることを考える余裕などありません。しかし、最終的に管理会社が考えなければならないのは、オーナーの資産を守ることです。管理会社のクライアントは管理料をお支払い頂くオーナーですが、そのオーナーは、「素早く質の高い入居者対応」「日常の建物の保守メンテナンス」「賃料集送金などの出納業務」などを要求します。それから、安定的に収入を上げる事=入居率を高める事ですから、「現状分析と募集戦略」「空室改善提案」などは、管理会社にとって欠かせない重要な仕事です。入居率目標は各社によって異なりますが、どの地域においても自社管理物件の入居率が周辺の市場入居率より高くなければ、他の管理会社に任せた方が良いという判断をされてしまうでしょう。そうとは分かっていながら、なかなか手がつけられないのがオーナー提案。残念ながら、多くの企業でこの問題を抱えています。その「提案業務」ができない理由は、1人1人の能力が原因と考えがちですが、根因は「組織体制」であることがほとんどです。
<労働生産性を下げる、仕事の優先順位の付け方>
管理担当者は、日々決められている予定があるにも関わらず、入居者からのクレーム対応や現場対応など、緊急性の高い業務が突発的に発生するため、それらを優先しなければなりません。結果として、仕事の優先順位は①緊急性の高い突発的な対応(入居者からのクレームを起因とする業務など)②期限・納期が決まっている仕事 ③その日予定していた仕事 ④オーナー提案、と言う順序になります。通常は②や③が日々の業務を形成していますが、①の発生頻度が高いほど、振り舞わされて時間のコントロールが効かなくなります。④は重要度が高くても、今日中に行う必要がないため、優先順位がさがります。毎日がその連続で、さらに同様に緊急性の高い作業が次々に現れ・・・となると、ずるずると提案が遅れて行き、気がつくと組織全体が日々の業務に忙殺されて、「提案」よりも「作業」を仕事と捉えてしまう組織となってしまいます。